在宅ホスピスについて

在宅ホスピスの事例

事例:小さな命を守る訪問看護ステーション

2000年に介護保険法が成立するとともに明文化された訪問看護ステーション、そこで働く訪問看護師は、在宅医とともに在宅医療の要となる役割を担っています。訪問看護ステーションは、介護保険法が成立する以前は老人訪問看護ステーションという名称で、老人保険法に基づく公的サービスと位置付けられ、対象は高齢者でした。

実際、今も介護保険利用の場合は、介護保険で認定された65歳以上のお年寄りが主な対象者ですが、医療保険適用の場合は、赤ちゃんから超高齢者まで年齢に関係なくサービスの対象となり、在宅療養の力強いサポーターです。

とはいえ、小児の場合、医療処置ばかりではなくデリケートな問題が多く、また、年齢も生後数カ月の赤ちゃんから20代の若者まで幅広いため、小児をみる訪問看護ステーションは限られています。

福岡市早良区次郎丸に2015年11月に開設した訪問看護ステーションOhanaを訪ねました。

地下鉄賀茂駅から歩いて5分、こぢんまりとしてちょっとお洒落なアパートの1階に一般の住宅を使った事務所があります。この辺りは西へ西へと延びてきた福岡市の都市開発のお陰で、ここ十年の間に地下鉄が通り、都市高速環状線が貫通し、急速に便利になった地域、昔からある家と最近建ったばかりの真新しいアパートが混在し、Ohanaの前にも広い道路が走っています。

玄関ドアのブザーを押すと、若い男性が迎えてくれました。

羽太嘉一(はぶとよしかず)さん、Ohanaの管理者です。

工業高校出身の羽太さんが看護を目指したのは、臨床検査技師をしていたお姉さん、管理栄養士をしていたもう一人のお姉さんから勧められたからだそうです。工業高校から医療系に行く人は少ないなか看護学校に進学、卒業後は総合病院の神経外科病棟やICUで看護師を勤めていましたが、結婚を機に、同じく看護師を勤める奥様の実家に近い福岡市の総合病院、福岡大学病院に転職。そこで、脳神経外科・内科病棟で5年勤められたそうです。お話をうかがいました。

Q:どうして訪問看護師をめざされたのでしょうか。

羽太:大学病院は超がつく急性期病院で、患者さんの移り変わり、入退院が激しいところです。そんななかで、患者さんは、検査にしても手術にしてもすごい不安があるのに、私たち看護師は昼間、仕事に追われ走りまわっており、まして医師はもっと時間がない。患者さんは声をかけたくてもできないし、ナースコールを押すことさえ気兼ねしておられるんですよ。私は、ルーティンの仕事が終わった後、話をしに行っとったですけど、もちろん十分じゃなくて、心中もやもやしていました。

うちの奥さんは、二ノ坂保喜先生(にのさかクリニック院長)のやっておられる「小さなたね」に看護師として勤めておったんですけど、同僚の看護師さんが私の話を聞いて、「だったら訪問看護師をしたら」って言われてですね、彼女も訪問看護師をしたいと思っておられたんですよ。

 

Q:「小さなたね」は、障害があるお子さんを、日中、預かるところですよね。

羽太:二ノ坂先生が、野芥の診療所の近くで始められたところでですね、ここからも近いですよ。

うちの二番目の娘が障害をもっとってですね、そういうことからも訪問看護について、自分でいろいろ調べたんですよ。そして、「小さなたね」の水野所長に相談に行ったら、そういうことならって、「訪問看護ステーションはな」の平野さんを紹介してくれて、一緒についてきてくださったとです。

 

「訪問看護ステーションはな」は、今年開設10年を迎えます。ステーションには平野頼子所長をはじめベテランの訪問看護師がそろっており、0歳から104歳のお年寄りまで対象に、24時間365日訪問。患者さん・ご家族はもちろん、在宅医の信頼もあつい訪問看護ステーションです。

「ウーーン、でも女性のほうがいいんだけどねえ……」羽太さんに会った平野所長はそう言いながらも、ちょうど日本財団の在宅ホスピスプログラムの一環である在宅ホスピス実践リーダー養成の実習施設として指定を受けていたところだったので、羽太さんに研修生に応募することを勧めてくれたそうです。

Q:病院を辞められたんですか。

羽太:はい、3月いっぱいで退職し、4月から6カ月間、研修生として「訪問看護ステーションはな」にお世話になりました。「はな」さんでは、手取り足取り丁寧に訪問看護について学ばせていただき、医療ニーズが高い方のケアをしっかり教えてもらいました。担当も持たせてもらえたし、ターミナルの方のケアにもいれてもらいました。

仕事をしながら開設に向けて準備をし、9月にNPO法人を立ち上げ、11月1日に訪問看護をスタートしました。

 

Q:訪問看護師になると決められてから、スタートまで1年とは速いですね。もうすぐ1年になるわけですが、今、利用者は何人いらっしゃいますか。

羽太:約50人ですね。そのうち6割が小児の方。あとは、二ノ坂先生のご紹介でターミナルの方、その他周辺のクリニックから紹介されてうちを利用してくださっています。

最近、亡くなった方は生後4ヶ月の赤ちゃん。今は、妊娠24、5週目の出産でも救えるようになったとですけど、どうしても医療ケアが必要な子が多いんですよ。

その子は出生時2100グラムで、自宅に帰ってきた時は小さな洗い桶でお風呂に入れるくらい、小さな小さないのち。母子感染による先天性ウィルス感染で、合併症もあって、最終的には心疾患で生後4ヶ月で亡くなられました。小さな体がついていかんかったんですよね。

Q:ご高齢の方も?

羽太:今、最年長の方が100歳ですね。こないだお誕生日を迎えられて、おじいちゃんの顔を形どったクッキーをいただきました。あれ? もうなくなったかな。みんなでポリポリ食べました。

近所のクリニックの先生にご紹介いただいたんですけど、お通じがなくて、もうそこまで出かかっとっても筋力が弱くて出せない。で、皮膚がただれてしまって痛くて動けんからベッドに寝たきりになっとったとですよ。私たちが行って、摘便したり、皮膚の清潔のケアをしたり、お風呂に入ってもらったりしたら、すっかり元気になられて、こないだは手すりにつかまって、玄関から出て行こうとされてお家の方が慌てられたそうですよ。そのくらい元気になられて、介護保険サービスを使ったいい例だと思ってます。

 

Q:スタッフは何人いらっしゃいますか。

羽太:今、リハビリが1人、看護師6人で7人ですね。私とNPOの理事が3人。そのうち一人は、「小さなたね」で私に「訪問看護師をしたらどう?」って勧めてくれた看護師です。あと、障害者施設の管理者を勤めていた人や総合病院の救急の小児科に勤めていた人とかですね。

 

Q:スタートして一年足らずでスタッフがそこまで揃うのはすごいですね。リハビリのスタッフもいらっしゃるんですね。

羽太:みんな自分たちのつながりの中で、一緒にやらないかって誘って引っ張ってきようとです。リハビリのスタッフが入ったことで、小児の患者さんのお母さんたちがすごく喜ばれて。

脳性麻痺の子の筋緊張を和らげてですね。リハビリで筋緊張が和らぐと、自分で動ける範囲が広くなるから、自分を表現したり、何かを訴えたり、アピールしたりすることができるようになる。お母さんが「全然動かんかった脚がこんなに広がるようになった」ってすごく喜ばれるんですよ。

Q: Ohanaさんが訪問される小児の方は、何歳くらいですか。

羽太:小児の年齢の幅は、さっきお話しした0歳の赤ちゃんから15歳、いや、20代の方もいますよ。

実際、24時間はお母さんがみておられますからね。大学病院でやっている小児の在宅訪問看護の支援事業があるんですけど、それに行くとよく言われるんですよ。「お母さんたちの意見がほぼ正しい」って。「“なんかいつもと違う”と言われるときは、お母さんが正しい」って。

だから私は、お母さんに対して「違う」とは言わない。例えば熱が出ているんだったら、「じゃあ、もうちょっと待って、解熱剤を使いましょうか」とか、お母さんの話を聞いてプラスアルファで自分の意見を言うようにしています。そういうことが信頼関係につながると思ってます。

とくに薬についてはよく調べておられて、「いっぱい使わんで」とか「絶対にそれは使わんで」とかこだわりのある方が多いですよ。そのほかにも、痰が出たら、すぐにとらなければいけないお子さんもいれば、「とらんで! 自分で出すけん」と言われる方もいます。そういうことは、こちらも言われないとわからないし、1、2時間でわかることでもないですよ。だから、じっくりと時間をかけてお付き合いし、お母さんやご家族の方と信頼関係を築いていくことがすごく大事なことだと思っています。

お母さんたちもですけど、なかにははじめて退院するお子さんがいるんですよ。生まれてからずっと病院にいて、病院しか知らない。だから、はじめて自宅に帰るわけで、そういうお子さんは自宅のほうが緊張する。先日も、2年間、こども病院に入院していて家に帰ったら緊張から熱を出して、また、病院に戻ったお子さんとかもいらっしゃるんですよ。

Q:1日に何件くらい訪問されますか。

羽太:1日にだいたい20件くらいですかね。スタッフ一人あたり4、5件、それに緊急が入ってきます。土日は少ないですね。

 

Q:看取りの件数はどのくらいですか。

羽太:今まで11名ですね。月にお一人の割合でお看取りしていますね。先ほどの0歳の赤ちゃんから、30代、40代の方、ご高齢の方もいらっしゃいます。

 

Q:訪問看護ステーションを立ち上げて、まだ1年足らずですけど、将来的に考えていらっしゃることはありますか。

羽太:実はですね、4、5年先に医療型の小児の短期入所施設を作りたいなと思っているんです。小児を訪問するとですね、お母さんたちがほんとに疲れていらっしゃるんですよ。ああ、これはもう、絶対にお預かりする場所が必要だな、と。

でも、そうなれば、絶対にドクターが必要になってきますからですね。あちこちでそういう話をしているんですよ。そうしたら、いつか小児をやりたいというドクターと会えるんじゃないかと思ってですね。

短期入所と昼間お預かりできる場所を作りたいんですよ。市内に「小さなたね」さんや他にもお子さんを預かる福祉施設は1箇所あるんですけど、絶対的に足りない。「小さなたね」さんには、餅つきやクリスマス会に参加させていただいて、いい雰囲気だなと思って。でも、スタッフが足りないからお泊まりまではできないんですよ。

今、大学病院から、どんどん医療ニーズの高いお子さんが家に帰ってきていますよ。そうしたお子さんは、ちょっと風邪を引いても、命に関わるようなリスクにつながります。そうした受け皿になれるような場所をつくりたいな、と思っています。

 

スタートして間もない訪問看護ステーションOhanaですが、もうすでに次なる展開を見据えて活動しておられます。

「訪問看護師になってほんとによかった!」と言う羽太さん。夢を夢で終わらせないしっかりとしたヴィジョンと熱意をもって躍進していらしゃるようです。

(取材日:2016年10月5日)

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