在宅ホスピスについて

在宅ホスピスの事例

事例:「一緒に暮らしてきた家だから、思い出いっぱいの町だから、ずっとここで生きていきたい」

福岡市西区JR今宿駅のすぐ近くに、一昨年の3月、今宿東3丁目から新築移転した小規模多機能型居宅介護事業所「三丁目の花や」があります。20065月開設。福岡市内では2番目にできた小規模多機能型居宅介護事業所で、今年11年目を迎えました。

 広い敷地に、横長の大きな木造2階建ての家屋。玄関前の敷地は、地域の方との交流広場の役割も果たしています。

 福岡市医師会訪問看護ステーションで10年近く管理者を勤めた平野頼子施設長は、2006年、地域の人々が安心して最期まで暮らせるようにお手伝いしたいと、「訪問看護ステーションはな」と「小規模多機能型居宅介護事業所三丁目の花や」を開所しました。それにつづいて、2009年には医療ニーズの高い人が日中、安心して利用出来る「小規模通所介護デイサービスこの花」を開設。これらの運営母体は、NPO法人緩和ケア支援センターコミュニティです。

その理念は、「一緒に暮らしてきた家だから、思い出いっぱいの町だから、ずっとここで生きていきたい。私たちはそんな気持ちを支えます」。

 平野理事長は、利用者・ご家族はもちろん病院、クリニックの医師や看護師の信頼が厚いベテラン看護師。利用者一人ひとりの生活を支えるための医療という視線には、揺るぎないものがあります。

 ところで、小規模多機能型居宅介護事業所とは、いかにも難しい名称です。厚労省が「地域密着型」という名前を冠した新たな介護保険サービスの一つで、通い、訪問、宿泊という3つの機能をもち(=多機能)、地域にあって、主に高齢者の在宅での暮らしを支える役割をもっています。

 「通い」とは、デイサービスやデイケアの機能で、日中、利用者にそこに通ってもらい、昼食をともにしたり、家では介護の手が足りずになかなか入れないお風呂に入ったり、簡単な体操や手作業、ゲームなどを通して認知機能や体力の衰えを防ぎます。「訪問」は定期的に利用者の家を訪ねて、利用者の自宅での生活を見守ります。また、「泊まり」は、レスパイト機能として、利用者が体調を崩して家での生活が不安な時や、家族が入院したり外出したりして利用者が一人になる時などにいつでも泊まることができます。

 小規模多機能型居宅介護は、この三つのサービスを有機的に組み合わせることで、できるだけ長く、安心して「住み慣れた町、住み慣れた家」で暮らせるように支援するもので、馴染みの場所で馴染みのスタッフがお世話することで、本人・家族にとって安心できるサービスでもあります。

 移転前の「三丁目の花や」には、以前、何度かお訪ねしたことがあります。住宅街の一画にある二階建ての大きな民家を利用して、2階を訪問看護ステーション、ケアプランセンターの事務所、1階を小規模多機能型居宅介護事業所にあてた、家庭的な雰囲気のある施設でした。そこが少し手狭になったことと、介護施設として耐震基準などの施設基準に合わなくなったことで、今宿東三丁目から二丁目に引っ越してきました。

 「三丁目の花や」の開設当初からケアマネジャーをつとめる高倉富士子さんと管理者の森本剛さん、そして施設長の平野さんにお話をうかがいました。高倉さんは最初の年から勤務されており、森本さんは2年後からで8年目になります。

Q;前に比べてずいぶん広くなりましたね。

森本:今日は、台風の影響でお休みの人が多いからガランと見えますけど、いつもは14〜18人の利用者さんがいますし、そこにスタッフが入るからいっぱいですよ。移転から1年経って、こちらもだいぶ使い慣れてきた感じですね。

 

Q:最近、小規模多機能でも毎日泊まったり、看取りをすることが多くなってきたと聞きますけど、こちらはどうですか。

森本:「泊まり」は連泊の方が、今、2、3人いるけど、価格設定の上で、毎日宿泊される場合の料金はグループホームのほうが安くなるけんですね。ご家族とご本人の選択の問題だと思うけど、それでも、ここがいいとか、ターミナルの方は残された時間があまりないという場合は、最後まで「泊まり」をされますよね。

高倉:前の「花や」でお二人看取って、ここに移ってからは3人看取りました。前は個室がなかったから、ご自宅からぎりぎりまで花やに通って来られて、入院されて一週間で亡くなられたということはありました。

今年の1月に亡くなられた方は、本当に自然な成り行きで看取らせていただいたんですよ。

森本:前の「花や」から利用されとって、そこで最初に看取りをした方を見ておられたんですね。それで、「私もこんなふうにしてね」って。約束しとったけんですね。一人暮らしをされていて、ここと自宅を行ったり来たりされながら過ごしておられた。ご自分が生まれ育ったお家が好きな方でしたからね。

高倉:自然な生活の流れの中で。でも、最後までお世話させていただきたいという思いは、こちらにもありますからね。

森本:看取りについて言うなら、条件が重ならないとなかなか難しいですよ。たしかに今、看取りの機能が小規模多機能型事業所にもついたところがあるけれど、看取りだけのために来るのでは、病院と変わらないから。そうじゃなくて、あくまでも、在宅の支援をするための「花や」だと思っています。もう一つの家としての機能があればいいかと思っているんです。

平野:最初から看取りを条件に利用される方はないし、ここを利用していきながらだんだんと年をとっていくとき、私たちは、本人にとって何が一番かを考えていきます。

先日は、娘さんがお一人でお母さんをみておられた方がいて、お母さんが食事が食べれなくなってきたので相談があったんですよ。

主治医が「桜の花が咲くころまでかな」とおっしゃったので、私が「先生、もう4、5日で咲きますよ」と言ったら、「あ、じゃあ散るころかな」って言いなおされてね。そのくらい危なく見られていたんですよ。

それまで「泊まり」の利用はなかったけど、娘さんが一人で家で看取るのは不安と言われるので、お母さんにはここに泊まってもらって、その間に、ここで娘さんに食事や介護の仕方を学んでいただいたんですよ。

とても熱心な方で、家が近くだったから、毎日、ミキサー食を作って通って来られました。お母さんはすっかり元気になられて、今はご自宅から毎日ここに通っていらっしゃいます。すごく可愛いおばあちゃんなんよ。娘さんは、家で一人で母をみるのは不安だけど、ここにきたらスタッフと話ができるので安心と言って喜んでいただけましたね。

Q:「通い」は、デイサービスとだいたい同じと考えていいですか。

高倉:基本は一緒ですね。ここに通って来られるお仲間や馴染みのあるスタッフと歌ったり絵を描いたり、レクリエーションしたり、体操したり、時々は買い物や散歩に行ったりして昼間を過ごしてもらい、夕方、ご家族が家に帰って来られるころ、車でお送りします。

お昼はここでみんなと一緒に食べていただきますし、お風呂に入ってもらったりもします。

家で一人でお風呂に入っていて何かあったら怖いと、ここで入るのをたのしみにしていらっしゃる一人暮らしの方もいます。

 

Q:「通い」は何時から何時までですか。

高倉:基本は朝10時から夕方4時です。でも、そんなに時間通りというわけじゃなくて、その方によっても、ご家族の都合によっても、夕飯をここで食べて遅く帰られる方もいらっしゃいますよ。今、夕飯まで食べて帰られる方が5、6人くらいですかね。前の「花や」ではなかなかそこまではできなかったんですよ。

森本:その辺は、事業所自体の体力の問題になるんですよ。スタッフの数とかですね。今は事業所も大きくなったし、個室も増えたし、送迎の車も増えたから、そういうこともできるようになったとですけどね。

Q:スタッフは今何人ですか。

高倉:今、23人ですね。

 

Q:小規模多機型能居宅型介護サービスの中では、「訪問」が見えにくいんですが。

森本:週何回というふうに計画的に訪問し、利用者さんの送り迎えのときに、お家での様子や、ご家族の様子をみるということもあります。

家での生活を支えるという意味では、その方が毎月、通っておられた町内会の老人クラブに連れて行ったりもします。向こうに行けば、「ああ、よう来らっしゃった。帰りは、電話するから」と言われて、帰りはまたお迎えに行く。それまで参加しておられた地域の活動にずっと参加してもらうためのお手伝いも大事ですけんね。

なかなかデイに通ってもらえない人のところに、毎日訪問して、そこで信頼関係をつくって通ってもらえるようになったこともあります。

 

Q:例えば事業所全体でみると、「訪問看護ステーションはな」や「デイサービスこの花」は、かなり医療ニーズが高い方を支援していらっしゃるから、医療系に強いという印象があります。今、複合型から名称が変わった看護小規模多機能型居宅介護サービス(通称・看多機)がありますが、看多機にされようとは思われませんでしたか?

平野:思わなかった。ここは、あくまでもお家での生活を支援するための事業所で、看護師も常に勤務しているけど、生活を主体とした介護中心のサービスでいいと思っています。例えば点滴とか、吸引とか、医療処置が必要なときは、訪問看護を活用しています。

Q:その場合は「はな」を使われる? 一駅しか離れてないから便利ですね。

平野:それは利用者さん次第。サービスの囲い込みはしたくないから。

今、ちょっと入院中の方は、パーキンソンの末期の状態だけど、ご主人が介護者で80代。吸引や胃瘻の管理があるから訪問看護に入ってもらって、ここでのお泊まりが4日。週2回で2泊されている。家におられるときは、そこに訪問看護を一日2回利用。

Q:最後に、3つの機能をあわせもつ小規模多機能の良さはなんでしょう。

平野:その方の生活の有りさまをきちんとアセスメントして、利用される方にとって今どういうサービスが必要かを考え、3つの機能を組み合わせていろんなヴァリエーションがつくれるよさがあるので、本人ばかりじゃなくて家族もしっかり支えることができます。

森本:まだお元気なころからここに通ってこられて、ずっと変化を見ていくわけじゃないですか。こないだ亡くなられた方はひとり住いで、訪問にも行っていたから、ほぼ24時間関わっている関係で、そのまま看取りまで「三丁目の花や」でさせていただいたんですけど。はじめは家族がみておられる時間が多く、僕らが関わることは少なかったんだけど、だんだん老いていかれるにしたがって、僕らが関わる時間が増えていく方も多いです。

最期までうちを利用されるかどうかは、僕らが決定権を持っているわけじゃない。今も老老介護で、家で“やおいかん”(大変だ)からと毎日泊まられる方がいらっしゃるけど、いずれは特別養護老人ホームに入所されるかもしれない。

全部の利用者さんを最期までみていくというわけじゃなくて、うちでみれる間はきちんとお世話していこうと思う。

高倉:当初からずーっと関わってきて、少しずつ老いていって悪くなっていく。その時間のなかで私たちは見ているわけです。ご本人ばかりじゃなくて、ご家族の様子もみている。その辺が小規模のよさじゃないですかね。

Q:最期の過ごし方みたいな話になってきますね。

平野:うちは、看取りをしますよって最初からとくに打ち出しているわけじゃなくて、皆さん年をとってくれば必然的に最期はあるわけだから。そこで、最期、どういう選択があればいいか。その選択肢の中に、「花や」もあるということ。それを家族も含めて、一緒に考えています。

家族の力を奪わないことも大事なこと。そうしないと家族も幸せになれないと思う。だから、家族との連携、関わり合いがとても大事だと思う。

看取りと言っても、「花や」を病院化したくない。生活の中に、看取りもあるよって。だから、ここで看取りをするにしても、家族も一緒にと思っているので、家族が泊まられることもあります。

 

三丁目から二丁目に移って、「三丁目の花や」は今、地域のコミュニティの中でも馴染みの場所となってきているようです。地域の人たちと一緒につくるイベント「ひまわりさんさん広場」は、地域の人たちと実行委員会をつくり、2カ月ごとに「花や」の玄関前の広場を開放して開かれています。手作りランチやバザー、駄菓子コーナー、カフェなど、小さな子どもとお母さんたち、小学生やお年寄りも集ってにぎわいます。

地域の人たちの家での暮らしを支援するためのサービスを提供する場所として、「三丁目の花や」はしっかりと地域に根付いていっています。

(取材日:2016年10月5日)

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