日本財団

在宅ホスピスHOSPICE CARE AT HOME

にじいろのいえ vol.3

紡がれつづける物語

開設以来の5年、にじいろのいえで36名の住人を看取ってきました。そのうち自宅に戻った人が2人、他の施設に行った人が3人。ショートが3、4人です。それぞれに物語がありました。今野さんに紹介していただいた数人の住人の方にお話をうかがいました。 60台はじめの女性はALSで、東京から手伝いに来てくれたお姉さんと筆談で話しておられました。人工呼吸器は着けないと決めておられ、声は出ませんが屈託無い笑顔で迎えてくださり、自分の今の気持ちを素早くボードに書いて伝えてくださいました。遠慮のないお二人の会話に、ずっとこんな感じで姉妹仲良く育ったんだろうなあと想像しながらも、だからこそお姉さんは、胸の内では妹さんのことが心配でたまらないのではないかと思いました。

Mさんは60代前半の女性。やはりALSですが、病状は先ほどの女性よりかなり進行しており、気管切開して声は失われています。動かぬ体、表情もほとんど変わりませんが、「伝の心」を使って言葉を交わそうとしてくださいます。目の動きで一字一字選んでは文字盤に書き込んでいく。時々、これまでに書かれた文章がスクロールして流れていきます。

そのMさんは昨年までご夫婦で入居されていました。人工呼吸器の装着を迷っていたMさんは、間質性肺炎だったご主人に「ともに生きよう」と懇願され、人工呼吸器の装着を決断されたと聞きます。しかし、2017年8月、ご主人は先に逝ってしまわれました。スタッフの話では、Mさんはご主人をそばで看取られたと言います。

ALSのもう一人の男性Sさんも昨年、奥様を肺がんで亡くされたそうです。リビングで見せていただいた写真は、夫のそばでやさしく笑うきれいな年配の女性、もう一枚はすっかりやせ細ったその方がSさんに寄り添うように横になり、細い細い手をSさんに向けて伸ばしておられました。

2階には頸椎損傷の男性がいらっしゃいます。17歳の時の交通事故が原因だそうですが、頸から下が自由に動かすことができません。にじいろのいえは、自分でさがしてようやくたどり着いた「家」。もう30年以上を不自由な身体のまま過ごしてこられた方に、今ここで、お気持ちを訊くのはためらわれます。社会の動きを明晰に追っておられる男性は、気楽な世間話に快く応じてくださいました。

 にじいろのいえで紡がれていく物語には、ときに外部の人間からすれば想像することさえつらく、悲しく苦渋にみちたものがあります。しかし、それをスタッフや訪れる家族、友人の笑顔、そしてこの「家」に流れていく穏やかな時間がすっぽりとやわらかく包み込んでいるかのようにみえます。

 これほどまでに医療ニーズの高く、肉体の機能の一部が刻々と失われていくという過酷な病と闘う住人、彼らとともにあるスタッフの明るさの裏には、この家で培われてきた強さとやさしさがあるのでしょう。彼らとそして、それでも最後まで生きていく住人の勇気に、心からのエールを送りたいと思います。

Vol.4 へ続く