日本財団

在宅ホスピスHOSPICE CARE AT HOME

とも暮らしの家・・・愛逢の家 vol.2

「もう実家です」

 愛逢の家は現在スタッフ11人、基本は日中2人、夜間1人の体制です。
 スタッフをはじめ、家の中をまとめているのが大森視也子さん、現場の責任者のような立場です。兼行さんに見込まれて愛逢の家の開設当初から勤め、兼行さんとともに愛逢の家をつくってきました。大森さん自身もこの10年の間におばあちゃんになって、この日は非番の日でしたが1歳になったお孫さんをおぶって来てくれました。キミエさんに赤ちゃんの顔をみせると、寝たきりのキミエさんも「バア」と大きな声を出してあやし、喜んでくれます。
 「大森さんにとって愛逢の家は?」と尋ねると、すぐさま「もう実家です」と答えが返ってきました。家にいても、愛逢の家の住人のことが気になって仕方がないといいます。去年はご自身のお父さんを自宅で看取られたそうですが、そんな最中にも愛逢の家の住人が気になっていたそうです。
 キミエさんとは当初からのお付き合いです。98歳のキミエさんが入居してからこの10年、ゆっくりと老いの坂道を下っていくキミエさんの横を歩いてきた大森さんは、もう身内の感覚です。
 「10年経って私も還暦を超えて、ぼちぼち燃え尽き症候群かなと思っていたけれど、今、一からやり直しかなって。もう一回細かくケアを見直そうと思って」107歳のキミエさんを見ていて、「お歳やし、その時がくるまで自然に今のままで」と思っていたけれど、「まだまだすることがある」とキミエさんのケアのあり方も見直すかまえです。
 愛逢の家の普通の暮らしを守る、日常を守るのが自分の仕事という大森さんは、細やかな配慮をすみずみまで行き渡らせるこの家のお母さんのような存在です。

手ェ抜かんと美味しい食事

 取材の間も時々、リビングを出たり入ったりしながら家事をこなしているのは香西英子さん、この日の日勤です。香西さんは愛逢の家に来だして4年になります。
 愛逢の家は「ここの最大の特長は、お料理にあるのかも・・・」と言えるほど、毎日の食卓が豊かです。食材はもちろん色どりもみるからに美味しそうなお皿や小鉢が並ぶ食卓。
 言うまでもなく、住人にとって食事は最大の楽しみ。「あと何日、何回食べられるかわからへんのやから、毎回の食事に手ェ抜かんと美味しいもんを出す」というのは、兼行さんが管理者をしていたときからつづく心意気です。西山さんに尋ねると「エンゲル係数はたしかに高い」そうです。住人が高齢化するに従って全体の分量は減ってきましたが、品数があれば手間は同じです。差し入れが多い愛逢の家では、それも上手に使ってメニューに加えます。
 料理は美味しいだけではなく、それぞれの状態に合わせることも必要です。お年寄りに多い便秘と下痢の対処はもちろん、消化器系にがんを患う住人にはその障りにならないようにと個別に細かな対応が求められます。西山さんと香西さんはコンチネンス(排泄)のセミナーに参加して排泄のケアにも心を配っています。
 そういえば、西山さんも月2回のルーティンで男の料理を披露するそうですが、「見て盗み、食べて盗み」しながらただいま、修行中です。

ボランティアグループwith あい

 愛逢の家の母体はNPO法人愛逢といい、1994年に設立した阪神医療生協「くらしの助け合い愛逢くらぶ」からはじまり、配食サービス、子育て家庭支援や障害者支援をはじめとしたさまざまな福祉事業を行ってきました。ボランティアグループの「With あい」も、そのプロジェクトの一環、愛逢の家の開設に半年遅れて結成されました。代表の海士美雪さんは、NPO法人愛逢の理事長でもあります。
 現在、ボランティアとして登録しているのは15人。月に一回、おしゃべりをしに来たり、初詣でやお花見などの行事の際に住人の外出に付き添ったり、2カ月に1回ウェス作りをしたりとゆるやかな活動ですが、西山さんは「本当にありがたい存在」と言います。愛逢の家のリビングに座って何にもしないでいても、住人でもない、家族でもない、スタッフでもない人がただ「いる」というだけで、その空間にゆとりができるようです。「大切なのはDoingではなくBeing」と言う海士さん。愛逢の家では、理事長としてではなくあくまでも一人のボランティアとして、この家の暮らしに、住人やスタッフの気持ちにゆとりの空間を作ってくれています。

vol.3 に続く